第八場

 出来るだけアダルトな感じのショーナンバーにしたい。

 アンサンブルの男女で最低二組のペアは欲しい。

 ボーイとレディを入れての三組のデェエットを中心にしたナンバー。

 最初は、アンサンブルのペア。出来れば一組ずつ舞台上に出て。ラストがボーイとレディのペア。

 その後三組が揃っての構成に出来ないか。

 ここは、男女の駆け引きを見せたい。ラブ・シーン的な振りが入ればベストなのだが。

 ナンバーの間にピアノ弾きが店に入って来る。

 ナンバーが終わって。ピアノ弾きレディに声を掛ける。ボーイの過剰な反応。


ピアノ弾き 「レディ。オーナーに話があるんだが…。」

レディ   「奥に居るでしょう。」

ピアノ弾き 「ありがとう。」


 ボーイの視線を理解しているが、軽く受け流して上手退場。


ボーイ   「レディ、あの男とは手を切った方がいい。」

レディ   「あんたに指図される必要はないわ。」

ボーイ   「僕は君のパートナーだ…。」

レディ   「でもあたしを束縛する権利はない。」


 二人の対立をアンサンブルを交えたダンスシーンとしたい。

 音楽的にはあまり派手でなく、しかし力強いものを使いたい。

 ほぼ同時に第二舞台で芝居が進行する。(こちらがメイン)


ピアノ弾き 「ジェイ。話がある。」

オーナー  「どうした。金でもなくなったのか。」

ピアノ弾き 「俺はもう一度音楽がやりたい、ピアノを弾きたい。」

オーナー  「デック…。」

ピアノ弾き 「そのためには、罪の償いをしなきゃ駄目なんだ。俺は、これから警察に行こうと思って居る。」

オーナー  「何故…?今まで二人で楽しくやってきたじゃないか。音楽にこだわらなくても金さえあれば

           生きて行ける。そう、金と権力さえ手にいれれば、怖いものなんてなくなる。」

ピアノ弾き 「俺は満たされない。金があっても力があっても。心が満たされ無ければ、俺は救われないんだ。」

オーナー  「……。裏切る、そういう事か。」

ピアノ弾き 「違う。お前とどうしても考えが食い違ってしまったのなら、俺一人が罪を着てもいい、

           実際人を殺してきたのは俺なんだから。だが俺がそうしたいんだって事は知っていて欲しかったんだ。

           俺の唯一人の友達であるお前に…。」

オーナー  「わかった。だがすぐに警察に行くのは待ってくれ。少し考えさせてくれてもいいだろう?」

ピアノ弾き 「ジェイ…。」

オーナー  「店の終わる頃にもう一度来てくれないか、もう一度だけ話し合おう。」


 ピアノ弾き、頷いて第二舞台を退場して行く。


オーナー  「ブラックの、役たたず。このままあいつを、警察なんかかに行かせるものか…。」


 オーナー 第二舞台退場。

 第一舞台ではレディとボーイの対立に区切りがついて居た。(ナンバー終了)


ピアノ弾き 「二人とも程々にしておけよ。」

ボーイ   「貴方が口出しすることじゃない。」

レディ   「ボーイ…!!」

ピアノ弾き 「……。俺はじきに退散するよ。それから後の事は、ボーイの好きにすればいい。」


 ピアノ弾き、もしかしたら、オーナーも一緒に警察に行ってくれるかもと、期待しつつ下手退場して行く。


ボーイ   「クッソーオ!!何故あいつは、あんなに穏やかな顔をしていられるんだ。あいつは…。」


 オーナー、第一舞台に、いつの間にか登場して居る。


オーナー  「ボーイ。奥へ来てくれないか、君に頼みたい事がある。」


 オーナー、再び第一舞台から第二舞台へ。ボーイ続く。


ボーイ   「オーナーいったい何を…。」

オーナー  「ピアノ弾きが出て行っただろう…。」

ボーイ   「彼がどうかしたんですか?もしかしてまた…。」

オーナー  「仕事じゃない。辞めて何処かへ逃げたいと言い出してね。これまでの事もあるし、口止め料として

           今までと比較にならない金を要求してきた。」

ボーイ   「彼の仕事は、貴方が要求して来たと言う事ですか。」

オーナー  「はっきり言ってそう言う訳でもないが、結果的に私の店のために彼が罪を重ねていたことになる。」

ボーイ   「邪魔になった者は…。」

オーナー  「そういう事だ…。そこでだ、今度はあの男がこの店にとって危険なものになってしまった、

            ピアノ弾きの存在が店の全員をおびやかす。」

ボーイ   「……。」

オーナー  「ボーイ。今回だけだ、もう暫くしたらピアノ弾きが戻って来る。その時に…。

ボーイ   「僕に仕事をしろと…。」

オーナー  「そうだ。私をこの店を助けてくれないか。君としても、このままレディとのパートナーを

           組んでいたいだろう。」


 ボーイ、オーナーの言葉を信じるより、レディの事を持ち出されて心が動いた。


オーナー  「あの男は正義の名を借りて、大戦当時の倫理で生きていた。」

ボーイ   「……。」

オーナー  「生き残りたければ殺せ。」

ボーイ   「……。」


 ボーイ、無言でオーナーに手を差し出す。


オーナー  「わかってくれたんだね。」


 オーナー、懐から拳銃を取り出して、ボーイに渡す。

 ボーイ拳銃を受け取って懐にしまって、拳銃を意識しながら第一舞台へ移動する。

 ボーイ第二舞台から第一舞台へ。


レディ   「話は終わったの。」

ボーイ   「……。」

レディ   「聞いてるのよ。」

ボーイ   「アッアァ…。終わった。少し外へ出て来る。」


 ボーイ決心はついているが、動揺と恐怖心を感じていた。下手退場。

 オーナー第一舞台へ。


レディ   「ボーイどうかしたの?!一体何を言つけた訳。」

オーナー  「たいした事じゃないさ。さあ皆さん今日はお開きです。気をつけてお帰りください。

           レディ、お前達も帰っていいぞ。」


 アンサンブルも帰そうとする。アンサンブルそれぞれ退場して行く。

 レディ残っている。


レディ   「オーナー、あんたもしかして…。」

オーナー  「ピアノ弾きが警察に行くなんて、馬鹿なことを言い出してね。」

レディ   「……。」

オーナー  「私を裏切るのは許せない。あいつは、私やこの店より、音楽を取ると言い出した。」

レディ   「辞めたいって事でしょう。もういい加減いいんじゃないの。それにあんたのほうが

           あの人を裏切り続けているわ。友達の振りをして、罪を被せて来た。

           あんたは一度だって、本気であの人のためになんて、考えた事ないでしょう。

           自分のために、そう言って利用して来た。」

オーナー  「それの何処がいけない。私はホワイトだ、ブラックが役に立たなくて、どうする。」

レディ   「……。」

オーナー  「オット!!お前もブラックだったな。だが現実だ…。私は私の大切な物を守る。これもまた正義なんだ。」

レディ   「エゴよ!!ホワイトだってだけで、肌の色が違うだけじゃない。私達は同じアメリカ人なのよ。」

オーナー  「この時代、住む所があるのは誰のおかげだ。食べ物にありつけるのは…。」

ピアノ弾き 「ジェイ。確かにお前のおかげだよ、だが俺はお前を信じてた、だから殺しを続けて来たのに。」


 ピアノ弾き、戻って来ていた。


レディ   「ピアノ弾き、戻ったの。」

ピアノ弾き 「話したいと言われていたので。一緒に行ってくれるかもと、期待していたんだが…。」

オーナー  「聞いていたのか。なら話しは早い。警察に行くなんて認めない。余計な事を話されるのも面倒だ、

           それならばいっそ…!!ボーイ帰って来てるか。」


 ボーイ拳銃を構えて登場する。


オーナー  「さあ、ピアノ弾きを始末してくれ。この店を、レディと踊っている、ひとときを守るためだ、

           引き金を引けボーイ。」

ピアノ弾き 「ボーイを身代わりにするつもりか!!」

レディ   「ボーイ、よく考えて、あんたが手を汚す必要なんてない。」


 ピアノ弾きと、レディの台詞に重なるように銃声。

 オーナーが、倒れる。


オーナー  「私じゃない。ピアノ弾きを殺れと…。」


 オーナー絶命。


ボーイ   「ピアノ弾きは、罪を償おうとしている。本当に裁かれるべきなのは…。」


 ボーイもう一度、銃を構えるが、二人に止められる。


レディ   「ボーイ…。」

ピアノ弾き 「ボーイ、もういい。」


 ボーイの激しい怒りから、人を殺した恐怖へと、感情が現実に変わっての叫び。


ボーイ   「ワァァー。」


 照明フェィドアウト。暗転。

   エピローグ

 舞台上プロローグの時代に戻っている。

 子供達がワイワイ話しながら下手より登場する。


子供 A  「そうなんだテキサスから来たのか。僕はニューヨークしか知らない。

           牧場ってきっと大きいんだろうね。テレビで見たカウボーイみたいに馬に乗った事あるのかい。」

子供 B  「あたりまえさ。でも広すぎるからお父さんはジープも使うよ。」

子供 C  「何か貴方の自慢話ばっかり。でもしょせん田舎自慢じゃない。」

子供 B  「じゃお前はどこからきたんだよ。何かお高く止まっちゃってさ。」

子供 C  「ロサンジェルス。おじい様とお父様が貿易の仕事をしているの。今日はおばあ様が

           ブロードウェイのステージを観て。昔の知り合いに会いたいって言うからついてきただけよ。」

子供 A  「ブロードウェイどうだった。僕もたまに連れていってもらうんだ。もう少し大きくなったら

           オーデションを受けて、何時かあのステージに立ちたい。」

子供 B  「俺はこのまま、お父さんの跡を継いで牧場をやって行く。たまに来るなら良いけど都会は苦手だ…。」

子供 C  「本当野蛮人。私はこのまま最高のレッスンを受けてデビューするの。おばあ様が、私には

          才能があるから頑張りなさいって。」

子供 A  「デビューって…。」

子供 C  「フィルム・スターもステージ・スターも、望みのままだって言われて居るわ。才能とお金があるから…。」

子供 A  「そうだね…君ならきっと成功するよ。」


 幼い子供達の会話にしては、大人びているが夢を語る純粋さが輝いている。(12才ぐらいまでと考えたい。)

 三人そのまま上手に退場してしまう。

 後に続く感じで。ピアノ弾き レディ ボーイの三人が、もとの年老いた姿で登場する。


ボーイ   「あれから、あの頃の事を、あの日の事を忘れた事はありませんでした。」

ピアノ弾き 「忘れても良かったんだよ。いや本当は忘れるべきだったのかもしれない。」

レディ   「そうかしら。貴方は覚えてくれているほうに、賭たんじゃなくて、だから新聞の取材を受けた。」

ボーイ   「私はあの後ずっと怯えて暮らしていました。貴方が本当のことを警察に話すんじゃないか。

           南部の家に帰り、その後叔父を頼ってテキサスへ渡ってからも、自分の罪を暴かれる気がして。」

ピアノ弾き 「信じて貰えていなかった。しかたないかな。でもあの時君に罪を犯させたのは私だと思っている。

           だから自分が殺した事にして欲しいと言ったんだよ。」

レディ   「いつまでたっても、馬鹿な男なのよ。だから今でも、この街でくすぶりながら生きている。」

ピアノ弾き 「罪を償い。もう一度生き直したかった。何年かして釈放されても、このニューユーク以外

           行く所なんてなかったのさ。」

ボーイ   「私は夢に挑み夢に破れました。」

ピアノ弾き 「若ったのさ。だが今では牧場の経営者だろう。」

ボーイ   「はい。でもすぐには、ふっ切る事が出来なかった。私は第二次大戦に参加したんでよ。」

ピアノ弾き 「そうか…。」

レディ   「男ってどうしてそうすぐ死にたがるの…。」

ボーイ   「そうじゃない。愛国心だよ。国を、愛する人達を守りたい、正義の戦いだと信じて参加するんだ。」

ピアノ弾き 「現実はどうだった。」

ボーイ   「地獄でした。そこで初めてピアノ弾き。貴方を理解できた気がして、

            いつか会える日が来るようにと願っていました。」

レディ   「生きて帰れたら、でしょう。」

ボーイ   「そのために罪を犯すんだ。だが何より恐ろしいのは、それが罪でなく報償の対象になることだ。」

ピアノ弾き 「戦場で人を殺せば、英雄だからな。」

レディ   「死んでも地獄。生き残っても地獄。馬鹿よ男なんて本当に…。」

ボーイ   「新聞の記事を見つけた時、やっと許される気がして、家族を連れて出てきてしまいました。」

レディ   「私はあの後、ハリウッドへ渡ったわ。でも相変わらず、オーディションも受けられない。

            ホワイト達に足げにされながら、でも何とか端役をもぎ取ったのよ。屈辱的な役でもあったんだけどね。」

ピアノ弾き 「知ってる…。」

レディ   「見てくれたの。」

ピアノ弾き 「お前を忘れる訳がない、私が見落とす筈がないだろう。」

ボーイ   「……。」

ピアノ弾き 「釈放され。妻と出会い。結婚して子供にも孫にも恵まれた。だが二人の事を忘れた事などなかった。」

レディ   「私も、そのたった一回の端役を与えてくれた、夫と結婚した。」

ボーイ   「それぞれが、それぞれの場所で生きてきたんですね…。」

レディ   「家族に囲まれた穏やかな暮らし。」

ピアノ弾き 「若い頃のほんの一時を過ごしただけだが、二人に出会えて良かったと思って居る。」

レディ   「私も、ボーイも、夢に辿り着けなかったけど、ピアノ弾きは、夢に辿り着いたのね。」

ピアノ弾き 「夢か…。ピアノは救い。音楽は信仰。」

ボーイ   「……。」

ピアノ弾き 「あの頃、正直迷っていた。ボーイの言葉が、私の夢を救ってくれたんだと感謝しているよ。」

ボーイ   「覚えて…。」


 子供達がそれぞれの祖父母達を呼びにやってくる。


子供 C  「おばあ様。まだお話終らないの、この子達と一緒に居るのも飽きてきたわ。」

子供 B  「行こう。お父さんが待ちくたびれてる…。」

子供 A  「おじいちゃん。時間時間。お店でお客さんが待ってるよ。」

ピアノ弾き 「そうだな、そうだったな。来てくれるんだろう…。」

レディ   「そのために、こんな所まで出て来たんじゃない。」

ボーイ   「聞かせてください。」


 ピアノ弾き、嬉しそうに頷いて。

 子供達、待ち切れないといった感じで。


子供 A  「先に行って、少し遅れるって説明してくるよ。」

子供 C  「待ってよ。私達も行くわ。」

子供 B  「俺も…。」


 子供 B・子供 Cに、引っ張られる感じで、子供 Aを追って退場する。下手。


ピアノ弾き 「行こうか…。」

レディ   「えぇ…。」

ボーイ   「はい…。」


 三人連れだって子供達が退場した方角へ歩き出す。

 照明夕焼けを思わせる優しい赤で、三人を包み込むようにフェイドアウト。

 この時、静かにジャズピアノの音が流れていたらベストかも。


                                         幕。

   フィナーレ

 最後の締めとして、芝居の中の曲でもよし。別の曲でも良いので。

  一、二曲選んでショー・シーンを作れれば。(もちろんジャズ系)

 ラストはカーテン・コール方式で、出演者が客席に挨拶する形を取りたい。





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